LOG 1〜50

0001 うまく笑えない夏が来る

0002 天井が落ちてきそうな真夜中に 魚眼レンズで四隅を見ている

0003 どこまでも優しい世界がつらかった あの日のぼくにうたを届ける

0004 太陽になりたいと泣いた少年の ひまわり揺れる 背伸びする夏

0005 眠剤をお守りのように持っていた 眠るあの子の首筋光る

0006 早朝のバイクの音をじっと聞く むかしの私によく似た少女

0007 泣くこともできない僕に降り注ぐ 夜空の星は今日もきれいだ

0008 好きにしていいと言われるのが一番苦手 落ちた雀の死骸を見ている

0009 泣いているぼくの瞳をのぞきこみ「海だ」と言った君に恋した

0010 生きたいと願わない僕が生きている ナースステーションの灯りは消えない

0011 君の指から紡がれるそれは 柔らかく確かに壊れていく狂気

0012 束の間を探す僕らの夜は更けて 空棲む虫に笑われてゐる

0013 年明けてポインセチアの咲くさまを なんとなくただ見ているだけ

0014 現代のきゅうけつきだから息苦しい 血が欲しくって頭がいたい

0015 できることとできないことがあるって 起きて五分 きょうを考えている

0016 あまりにもさくらが綺麗だったから またひとつ僕は道を間違う

0017 優しさを感じるほどにかなしいとおもうこころがとてもさびしい

0018 天井が落ちてきそうな真夜中に 魚眼レンズで四隅を見ている

0019 僕の知る君は確かに羽を持ち 空気は軽いと笑っていたね

0020 ステロイドで息が楽になる それだけのことがなんとなくこわい

0021 許された人の背中を見ている

0022 雨音は嫌いだあの日も雨 濡れた場所から引き戻される

0023 駅の階段を駆け下りれるのは元気なんじゃなくて重力に逆らわないだけ

0024 でこぼこのガラスを通して君を見れば世界が変わる そんな気がして

0025 薄霧のカーテン途切れる 向こうには 生まれるはずではなかった姉が

0026 生きるのが嫌だと言って目を閉じた君の睫毛に粉雪溶ける

0027 さびしさを紛らわすための恋なんて 知らないほうが良かった 夕暮れ

0026 捨てるなと言われた夢を今朝捨てた 箪笥はいつも重い木の色

0027 前だけを向いて生きたいはずなのに 背後のぼくに狙われている

0028 弱い人は 踏み潰されると知りながら それでも私は君の歌が好き

0029 いきるのがへたなところも父譲り 電車の席の壁だけが味方

0030 妬ましい気持ちが底なし沼だから せめてグリーンの瞳が良かった

0031 優しすぎる ノイズだらけのこの部屋で 必死に君の声を探した

0032 あの夏に僕らはここで出逢うだろう 380日目の猛暑日

0033 あの日から約束ばかりが増えていき ついにひゃくごじゅうろくせんち

0034 亡き祖母の薄いてのひら思い出し 人の血肉の儚さを知る

最後まで 言えなかったあの言葉があって 次会う君はまっさらな君

はじめまして 出会ってくれてありがとう あの日の続きを言ってもいい?

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一枚の絵画のようなあの瞬間(とき)が 忘れられないのだと異邦人は云う (ベディヴィエール)

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輝きに眩んだままに落ちていく この変奏曲 長すぎるよ ねえ (サリエリ)

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暴れれば暴れるほどに締め付ける 苦しみを知るあなたがころして (アヴェンジャー)

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追い越したいわけじゃなかった みずうみの ほとりに立つのは自分がよかった

完璧と 憧れていたおうさまの 華奢すぎる肩を知ってしまったから

小さな背に 縋ることすらできなかった ねえ見てひとりで 大きくなったよ

貴方のように なれないことを知りながら 今夜も剣を抜く夢を見る

(モードレッド)

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最後まで言いたいことも言えぬまま でも少しだけ 嬉しかったの

ぎこちなく差し出した手を取ってくれた ランチタイムが続けばよかった

真っ直ぐに進むあなたの日曜日が 幸多きものでありますように

(オフェリア)

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間違いなどひとつも犯してないような まっすぐな目で世界を壊すの

振り向きもしない確かな足取りは だんだん人ではなくなるようで

世界と私 どっちが大事ですかなど 狡いことをたまに聞いてみたくなる

(藤丸立香)

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私には親友がいたはずだった (名前は確か フジマル×××)

燃えるよな 髪と目だけは覚えてる 生徒名簿にもいないあの子

もう二度と会えないのだと知りながら 霧の向こうに彼女を探す

(藤丸立香の親友のはなし。)

2017.12

さよならの気配が詰まったこの部屋で 冷たい空気を胸いっぱい吸う

祖母の目に 綺麗な青があることを 介護ベッドの上に来て知る

たましいがもういないってわかるのに 髪を撫でまだ話しかけてる

腰の辺りに 入れた絵の色が燃え付いて 緑に染まった骨を拾った

さよならを言えずに帰ってきた僕に クリスマスソング高らかに鳴る

雪女

白粉をおとしたような雪原に はだしのおんなのまぼろしをみる

ぬくもりを一生知らないからだだから 雲の向こうの日輪を想う

さむいけど あかるいから ねえ 私の顔を よく見て いのちが おわるときまで

いつかしぬ人が静かに梨を剥き いつかしぬ人が新聞を読んでいる 朝

見ないふりばかりが上手になっていく 靴音だけが響く廊下で

「死んでから三日は耳が聞こえる」なんて 誰も知らない優しさばかり

永遠にひらかぬ瞼をかすめゆく 「涙そうそう」は誰に届くか

もう生きていない もう生きていない人の足 わたしが見たのはたったそれだけ

目に見えるものの全てが遺品みたい 私が透明になっていく夜

心臓の音を辿ってここまで来たの 生きるってたぶん そういうことだ

水葬

うつしよと隔てるように石を入れた さらばおとうと 波路遙かに

白波に花が散らばり消えてゆく 幾千の日々皆還らざる

ごわごわの麻袋では痛かろうと シルクのスカーフこっそり巻いた

海底に桜は似合わないとわらう 帰る場所なき たまゆらの君

いつか誰かが言っていた海の底の 都をきっと見に行ったんだね

死ぬことは罪だと思う 生きるのは罰だと思う朝霞の中

魂の在処など知らぬ僕らだから 一緒に桜の木になろう

死んだ後ばけものをつくる仲間にしてよ わたしの骨を一本あげる

たまらなく耳をふさいでも鳴り止まぬ潮騒 生まれる前からずっと

海べりの女の人のまぼろしを 見て見ぬふりして大人になるの

冷え切った手足ばかりが赤くなり 骨はいつまでも白白と光る

生きるのがイヤ 嫌 厭 海の底にもまだ土がある

汚れてる 体が汚れてる気がして 骨になる夢を幾度も見る

 

(狂骨の夢)